みなさんこんにちは。
みなさんは世界的芸術家、千住三兄弟をご存知でしょうか?
長男・千住博は日本画家、次男・千住明は作曲家、娘・千住真理子はヴァイオリ二ストという芸術一家のご兄弟です。
今回ご紹介する本は、そんな世界的に有名な三兄弟を育てられたお母さまが書かれた一冊です。「子どもは親のものではないんだ。将来どんなことをやっても自由なんだよ。」と言うお父さま(千住鎮雄氏)の励ましを胸に、子育てに奮闘した様子を鮮明に記しています。
この本は、子育てのみならず、千住家の成り立ち、両親の最期や夫婦の馴れ初めなど著者の回想録に近い文章も載っていますが、ここでは子育て・教育に関連した部分のみ抽出してまとめたいと思います。
以下は、この本を読んで個人的に要約したものです。
千住家の教育白書
三兄弟「ヒロシ」「アキラ」「マリコ」
物語は幼少時代の三兄弟を、いきいきとした文章により紹介することから始まります。
六歳に近いヒロシは、打てば響くように応える。「ハイッ。ボクーチロチ、トーッテモヨクキコエマシタ」甲高いが少し鼻詰まりのある声である。すると「ガイ。キコエマチター」と三歳のアキラのハスキーな声がする。一歳半のマリコは、みんなに合わせて口をパクパク動かしている。兄たちの大きな声に消され、「キーチタ」とか、はっきり聞き取れない。それでも、一番どすが利いた低い声をしているのである。(pp.13-14)
この引用文からお分かりのとおり、この本で著者が描いているのは芸術家の三人ではなく、「ヒロシ」「アキラ」「マリコ」という普通の子どもと何ら変わりない愛おしい子どもたちなのです。
本の中で、著者は三人をきちんと描き分けていて、誰に偏ることもなく、平等に、公平に、なおかつ自然に子どもたちを見つめていることが分かります。
2.千住家の始まり
著者・千住文子氏と夫・千住鎮雄氏(慶應義塾大学名誉教授)は戦後から復興間もない日本で出会いました。良くも悪くも戦争を経験している二人の思想は、後の生き方や子どもたちの教育に大いに影響を与えていることが伺えます。
また、第二章の後半から描かれる三人の子どもの出産はまさに命がけであり、そのときの著者の想いには、子育てにかける強い決意と覚悟が感じられます。「青年老い易く学成りがたし」と私語を交わす暇もないほど仕事に打ち込む夫を支えながら、三人の子育てに奮闘する毎日を送っていました。
そのはずだったのですが、マリコがたった生後2ヶ月の時、首の中に腫瘍が見つかり絶望の淵に立たされる事になります。それでも多くの恩師に助けられ、再び子どもたちに会った時、著者は再び蘇った生命に感謝し、子育てに本気で向き合い子どもたちを側で見守る幸せを感じたのでした。
3.芸術との出会い
長男・ヒロシはクレヨンを持つようになると、襖・壁・柱に至るまで家中どこでも絵を描いたそうです。普通は止めたり、怒ったりするところを、著者と夫は話し合いの結果、「放っておこう」と決めます。
「他の場所に行ってやってはいけないということは、しっかり教育しておこう」「描くなら徹底的に描け」と、悪戯ともとれるお絵かきを許容したのです。要は真剣か不真面目かにかかっていると。この選択がのちに世界的日本画家としての才能を開花していく原点になったのです。
「子どもを育てるのは、子ども自身の自由を基本として、見守るという謙虚な考えに徹しなくては駄目なんだよ」(p.80)
多忙な夫と限られた夫婦の時間の中で、子どものことについて何度も考え話し合ったそうです。二人の教育理念は、現代で問題となっている「押しつけ教育」を真っ向から否定し、子どもの人格を尊重し、無償の愛を与えることを信念としていることが伺えます。また、夫婦で子育てについて話し合う大切さ、子どもへ過度の期待をかけず自由にさせる適度な放任さが必要なことが分かります。
第三章では、三人の子どもたちと著者がヴァイオリンという未知の芸術に出会い、その魅力に圧倒されながらも、ヴァイオリンの第一人者に出会えたことで芸術に目覚めていく様子が描かれています。長女・マリコは、兄に倣って二歳から始めました。
先生から“賑やかし”として「学生コンクール」へ出場するように勧められたのをきっかけに、家族で協力し、必死に練習した結果、二位入賞。翌年、同じコンクールで優勝します。この時の類稀なる努力と才能が、後に世界的ヴァイオリニストとして名を馳せる原点になったのです。
私はこのことから、素直に先生の指示を聞き入れ、どんなハプニングにも動じない親子の絆があったからこそ成し得た成功だと感じました。
第六章では、ヒロシ・アキラの芸大受験の壮絶さ、マリコのプロへの道が描かれています。芸術のプロとして成功するために一筋縄ではいかない人生経験が詳細に記されているので、ぜひ本書で読んでみてください!
4.アメリカ横断の旅
第四章では、夫が米国に招聘されたことを機に、二週間かけて家族でアメリカを横断する物語が展開されています。この時見た風景、触れた文化体験が貴重な経験として家族の絆を深め、記憶に刻み込まれることになるのです。それぞれ絵画や音楽の中に、この時の経験が原点となっている作品がいくつもあります。
このことから、私は幼少期に旅をして毎日新鮮な体験をすることが彼らの思考を豊かにし、類稀なる芸術センスを磨いたのだと感じました。
また、著者自身も、様々な世界を見て、感じて、考えることにより、戦時中の「米国は敵国」という先入観が覆され、人として大きく成長していることが分かります。
解説の重松清さんも記していますが、著者の事細かな記憶力と繊細な文章力によって千住家の人生を鮮やかに蘇らせているのだと私は感じました。さらに、3人の子どもの”お母ちゃま”として、優しく真剣に見守る寛容な心に子育ての真髄を見た気がします。
まとめ
以上が、「千住家の教育白書」をまとめてみたものです。
今回、紹介した内容は、教育・子育てに関する部分のみを抽出しましたが、最愛の夫・両親の最期や千住家を支えるたくさんの恩師の方々についても記載があり、読みどころが満載の内容となっています。私自身、この本を読んで、著者の何事にも真っ直ぐに本気で向き合う人格にひたすら感心し畏敬の気持ちが湧きました。
母として、妻として、娘として、一人の女性として、包み隠さずここまで美しい文章で記されている人生記録が他にあるのでしょうか。子育て真っ最中の筆者としては、子育てや親との向き合い方、夫婦関係がとても参考になりました。
今回、ご紹介した教育法は科学的根拠に基づいたものではありませんが、一つの考え方として子育ての参考になればと思います。
忙しい育児の中で読む時間が取れなかったり、じっくり本の世界に浸れなかったりしますよね?そんな時にこのまとめがお役に立ったら嬉しいです。
今後、NOCCでは他の書籍もご紹介していくので、引き続きご参考いただければと思います。
まとめや要約を知りたい書籍がございましたら、ぜひお気軽にコメントください。
書籍情報
書籍名 | 千住家の教育白書 |
著者 | 千住文子 東京出身。明治製菓株式会社研究所薬品研究室研究員として抗生物質開発の研究に従事。退職後、千住鎮雄(後に、慶應義塾大学名誉教授)と結婚。長男・博は日本画家、次男・明は作曲家、長女・真理子はヴァイオリニストとなった。著書に『千住家の教育白書』『千住家にストラディヴァリウスが来た日』(ともに新潮文庫)などがある。 |
発行所 |
新潮社 |
発行日 | 2005/10/1 |
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