みなさん、こんにちは!
みなさんは「エンゲージメント(engagement)」という言葉をご存じですか?これは、物事への「取り組み方(の質)」を表す言葉なのですが、エンゲージメントが高まると、学力やストレスに対する柔軟性が高まり、指導者に反抗するなどの問題行動が減ることが分かっているのです。
しかし残念なことに、中等学校(中学1年生から高校1年生)の間、子どもの学習におけるエンゲージメントは下がり続けることが証明されています。(この年頃の子たちって、部活や友人関係など、勉強以外にパワーや気力を使いますよね…。)
そんな多忙で多感な子どもたちが、勉強で常にベストを尽くそうとする、もっと言えば「クラスの中で」一番ではなく、「自分の中で」ベストを尽くそうとする気持ちを持っていれば、勉強も素晴らしいパフォーマンスが出せるような気がしませんか??
今回のテーマは、自分のベストを尽くそうとする気持ちと行動が、エンゲージメントに影響を出すかどうか、です。また、自己ベストを設定するときに大切なポイントもご紹介しています。
*専門的な内容になりますので、とりあえず結果が知りたい!という方は「まとめ」から読んでいただいても大丈夫です!!
学生のエンゲージメントの低下における自己ベスト(PB)目標設定の理解:潜在成長モデル
はじめに
中等学校(日本でいう中学1年生から高校1年生まで)の間、生徒たちの学習におけるエンゲージメントが下がるという結果報告が十分にあります。(CESE, 2017; Skinner et al., 1998,2008; 要約として Wigfield, Eccles, Schiefele, Roeser, & Davis-Kean, 2006)
なお、本論文のテーマであるPB(パーソナルベスト、以下PB)目標設定は、「英語のテストで100点をとる」などのような一般的な目標設定ではなく、
「結果を出すためにベストを尽くそうと意識し、努力すること」
です。
例えば、「課題に取り組むとき、前回よりやり方を工夫しよう」と意識して、その達成に向けて努力すること」などがあげられます。
またPB目標を設定するときは、下の二つの要素を必ず含む必要があります。
1.生徒のレベルに合う難易度であること
2.以前の自分が出した結果を越えるために必要な行動を目標の中に組み込むこと
過去に設定したPB目標を達成すれば、それが次の新たな基準となり、それを続けることで、どんどん自分の基準(レベル)を高めることが出来る、それがPB目標設定のねらいとなります。
目的
PB目標を設定することが、学生のエンゲージメント低下問題の解決策になるかどうかを検証すること
実践的なアプローチとして、PB目標を設定するときに重要なポイントも紹介されています。(ポイントは、実践編部分にまとめてあります。)
対象者
中等学校7年生~11年生(日本の中学1年生~高校1年生にあたる)の368人
オーストラリア ニューサウスウェールズ州・ビクトリア州にあるカトリックおよび私立の中等学校4校(内2校は共学校、2校は女子校)なお、平均年齢は13.33歳で、全体の82%が女子生徒。
手続き
・全ての回で回答した生徒が調査の対象。
・調査は全てオンライン上で行う。
・調査は3回(2014年後半(T1)、2015年後半(T2)、2016年後半(T3))。
・全ての回で同じ質問をする。
・キャンパス移動など、対象者の社会的・環境的変化はない。
PB目標設定は、「PB目標スケール(Martin&Liem,2010)」から4項目を用いて、1(強くそう思わない)〜7(強くそう思う)までの7段階で評価しました。
例:「学校の勉強を行うとき、これまでのベストを尽くすようにしていますか?」「学校の勉強を行うとき、以前に行ったやり方に、さらに工夫を加えようとしていますか?」など
エンゲージメントについては、以下の3つの観点を7段階で評価しました。
1. 学習の計画や実行に対して、モニタリングができているか
例:「宿題や課題に取り組む前に物事を計画する」「勉強の予定表や計画に沿って勉強を進める」など4項目
2. 根気強く学習に取り組めているか
例:「意味が分からないと思うことを教えられた時も、理解するために時間を費やす」などの4項目
3. 学習のタスク管理が出来ているか
例:「勉強する際、自分が一番集中できる時間に勉強する」「よく勉強できる場所を見つけようとする」などの4項目
結果
・PB目標を設定している生徒は、初期段階(T1時)のエンゲージメントが高かった。
・PB目標を設定すると、設定した時期と同じ時期のエンゲージメントに良い影響を与えた。
・常に(T1,T2,T3全ての回で)PB目標を設定することで、生徒のエンゲージメントへの影響力が強くなっていった。
ただし、初期(T1)時にPB目標を設定したからと言って、対象者のエンゲージメントが低下する度合いが緩やかになるわけではなかった。
また、補足として
・PB目標設定することが、学生のエンゲージメントに一貫して良い効果をもたらす
・年齢と共にエンゲージメントが低下することは避けられないが、PB目標設定することが、低下を緩衝する効果を高める働きを持つ
・目標を達成する満足感は、達成するたびに感じられ、時間の経過とともに満足感は高まっていく可能性がある
以上の効果も確認できました。
実践編(PB目標設定時のポイント)
PB目標設定をするときのポイントが4つあります。Martin (2006)
①PB目標設定を第三者に手伝ってもらうことや定めた目標を第三者に話すことの重要性を理解すること。(Travers et al.2015) また、決めた目標を誰かに思い出させてもらうことも大切です。(Martin and Elliot 2016)
②最適な難易度のタスクにするために、自身のベストを正確に把握すること。その際、周りの誰かが目標設定の助けを行うこと。
③定めたPB目標を実行するまでに、タスクがどれだけ進んでいるか、進捗を正確に評価すること。難しい場合は、同じ書き方で書いた、自己を振り返る記録(日記)をつけることが有効です。(Travers、Morisano、Locke, 2015)
④長期的なPB目標は、短期的なPB目標を設定および達成していくことで達成できる、という考えをもつこと。大まかすぎたり、レベルの高すぎるPB目標だと、逆にモチベーションが下がってしまいます。(Martin, 2015)
まとめ
①自己ベストを意識し努力する子どもは、勉強も効率よく取り組む傾向が見られる。
②自己ベストを尽くす意識をしたその時点で、勉強の質が向上する。
③意識を持ち続けると、どんどん向上するスピードが上がっていく。
④一度意識しただけでは勉強の質は上がらない。長いスパンで学習の質を上げるには、常に自己ベストの意識を持ち続ける必要がある。
ちなみに自己ベスト目標(PB目標)を設定するにはコツがあり、設定するときに第三者の目を入れることや、成長日記をつけること、目標のレベルを少しずつ高くしていくことを意識することが重要です。
私は3年半ほど私立学校で教員をしていたのですが、担当した生徒さん達は、「私たちには勉強より大事なものがある!!」という固い意志を持っておられました。(笑) それは勉強が苦手なお子さんだけでなく、成績上位のお子さんでもその傾向が強くありました。(部活動コースだったということもありますが…。)
中高生たちが、色々な人とのたくさんの繋がりの中で人との関係を学んでいく中で、勉強へのモチベーションが相対的に下がってしまうのは仕方のないことかもしれません。しかしその中でも勉強へのモチベーションを保ち続ける生徒さんがおられるのも事実であり、そういう生徒さんは、ベストを尽くす楽しさや充実感を既に知っていたのだと推測します。実際、学校の成績が一番だった生徒さんに共通していたこととして、学校課題の取り組み方が常に丁寧でムラがなく、成長意欲を持ち続けていました。
学習は一生続くものなので、自分を成長させるコツや習慣を学生の間に身につけ、社会に出ても大きく活躍してくれることを願っています。
NOCCでは、今後も子育てに役立つような論文をご紹介していきますので、
ぜひ時間があったらホームページを覗きに来てください。
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